大工の自邸プロジェクト(5)

挑戦①人研ぎキッチン


今回のプロジェクトで、初期の段階から挙がっていたアイデアの一つが人研ぎ(じんとぎ)のキッチン。人造石研ぎ出し仕上げの略で、昔の流しやデパートの階段踊り場、学校の手洗い場などに使われていたアレです。


種石と呼ばれる石を混入したセメントを塗りつけたのちに、研磨機で磨いて仕上げます。種石が細かな模様のように現れ、独特な表情を見せてくれます。左官職人の技術が必要になります。昔は高価な石材の代わりに職人が手間をかけましたが、近年はコストを下げるためなら既製品がキッチンにも床材にもありますから、人研ぎの出番は極めて少なくなっています。人研ぎができる職人も減っています。


そんな状況ですが、パートナーの中村さんとこの家づくりで取り組んでいるテーマの一つは、できるだけ既製品を使わないこと。そして中村さんが提案してくれたキッチンのデザインは、「竃(かまど)」の手ざわりをイメージした人研ぎキッチンです。


人研ぎは、大瀧建築の左官仕事を担ってもらっている花嶋左官の花嶋輝久さんに相談。この日は打ち合わせに参加してもらい、仕様や施工方法など打ち合わせを行いました。また、現代版の竃キッチンの人研ぎは、キッチン脇のソファのベース部
とも一体となります。そこで、ソファのクッション部を製作してもらう園田椅子製作所の園田剛幸さんにも参加してもらい、より詳細な検討を行いました。人研ぎのキッチン&ソファは、花嶋さんも初めての試みだといいます。
園田さんも中村さんも大瀧建築も初めてです。打ち合わせをしていると四者ともこういうことにわくわくするタイプだということが判明。気持ちが先走りしないよう、準備と確認は綿密に!




挑戦②二間のバスルーム


もう一つ既製品を使わずに在来工法でつくることにしたのが、浴室です。
既製品のユニットバスを使わないことは、最後まで悩みました。
浴室は、男性がこだわりを見せることが多い空間です。温泉のようにとか、景色を楽しみたいとか。女性は現実的なポイントに意識を向けて、掃除がしやすいこと、汚れにくいことを望みます。


大工がつくる家だから、と、それだけの理由で在来工法の浴室をつくるのでは自己満足に終わってしまいます。お客様にも、奥様にも、「この浴室がいい!」と言ってもらえるバスルームにすることを考えつづけてきました。


最終的にまとまったプランは、浴室と洗面の二間が連続した空間です。
床には同じタイル。仕切りの扉は全面開口で、ひとつながりの二坪の空間になります。凹凸を極力排した簡潔で質実な空間は、汚れやすい箇所を可能な限りすくなくし、掃除がしやすく、洗濯物も広々干せて、入浴も洗面も気持ちよくできます。


こちらのバスルームも花嶋左官さんに関わっていただき、職人技術を存分に注いでもらいます。
既製品の設備は壊れたり耐用年数を過ぎたら交換になりますが、造作したものは補修が効きます。職人が活躍する家づくりが存続することで、職人も技術も継承されていく。そんな家づくりを目指しています。