大工の自邸プロジェクト(3)

デザイナー中村さんと製材所「フジイチ」を訪ねる


「大工の自邸プロジェクト」の定例ミーティングを行った日、デザインパートナーとして参加してもらっている股旅デザイン班の中村圭吾さんとフジイチさんを訪ねました。大瀧建築が使っている木材・天竜材の製材メーカーです。大工の大瀧雄也と広報担当の大瀧彩央里も同行しました。
建築現場でも加工場でも、いつも天竜材に囲まれていますが、中村さんに天竜材を案内する機会に、私たちも改めて木材メーカーをじっくり見学することしました。
天竜材の歴史は室町時代を起源として、地場産業として脈々と受け継がれてきました。江戸時代にはその品質が認められ江戸の市場を独占。こうした流れの中で天竜の林業と製材業に尽力してきたひとり、龍川村(現浜松市)で助役を務めた内山銀佐久氏が個人で始めた製材メーカーが1946年創業のフジイチさんです。製材メーカーといっても、山に生育している立木を見て山の所有者と交渉する目利きが材を仕入れます。そして、フジイチさんは、伐採も植林も間伐も山の管理まで一貫してとりくむメーカー。つねに100年先まで見つめた仕事をされています。
1000年の歴史に育まれる天竜材を使った家づくりができるのは、大工として、家づくりに関わる者としてとても嬉しい気持ちになります。そして、そんな材を最良にいかす家づくりをやりたいと、気持ちが引き締まる思いがしました。




地場の木材を使う工務店の役目とは


歴史が証明する、天竜材・フジイチさんの品質。とかく林業の衰退が嘆かれたり、一次・二次産業の働き手の不足や高齢化が世間では言われていますが、フジイチさんで働く人たちは若い! 平均年齢が30代ということですから驚きです。元気な地場産業の会社というのは、地元の産業と地元の人の繋がり、暮らしと仕事の共存共栄が実現しているということではないでしょうか。健全な地域社会なしでは、天竜材1000年の歴史もないということです。
木材の加工や品質のことは、いうに及ばず。いつも触れている木材は、信頼できる確かな仕事によってつくられています。しかも、木材乾燥の新しい技術開発などにも余念がありません。
自分だけの家、使い捨てる家なら、100年の耐久性は必要ないかもしれません。しかし、地域に根ざした生活、子どもや孫の代までを思う気持ちで建てる家は、100年どころかそれ以上も家族に受け継がれていくものです。地域に根ざした工務店であるためには、そういう家をつくりたいと考えます。
ちゃんとした木を使い、ちゃんとした構法で建て、ちゃんと暮らしてときどき手入れをすれば、100年住宅は当たり前だったのがちょっと前までの普通の家でした。家を建てる人は、その時点での人生を振り返り、そこから未来を眺めて家を建てます。家も、昔と未来と両方を見つめながら最良の今に応えるものでありたいと考えます。