大工の自邸プロジェクト(11)

デザインラッシュ、突入


前回の記事の状態から引き続き、初めて取り組んでいる内装品や建具のデザイン、特注でつくるオリジナル家具や設備、小さなパーツにいたるまで、さまざまなものの仕様・形態の最終決定が連続して迫っています。
最初にプランを考え始めたときから濃密なデザイン時間を重ねてきましたが、完成が近づいたいま、デザインラッシュです。

今回、デザインパートナーの中村圭吾さんと打ち合わせをした項目は;


【草屋根棟の障子の組子】
数か月前にデザインディスカッションをしたことをもとに、最終案をいくつか用意し、打ち合わせを行いました。桟木が少ないことで和の様式に縛られない組子にするために、何通りかの組子デザインを比較。桟木の間隔や横桟の入れ方で意見は分かれたのですが、最終的に現場に立ってみると、意見はぴたりと一致。横桟のない縦桟だけの組子に決まりました。


【照明器具とクラフトアイアンの引き手】
草屋根棟は、勾配天井の木造りの美しさを活かすために、照明を天井に取り付けないことにしました。間接照明方式のフロアスタンドをどこに設置するか、仮の電灯で検証しています。
また、入り口の引き戸には、鉄の引き手を特注しました。小さなパーツですが、入り口の顔となる引き戸のパーツであり手に触れるものでもあるためこだわりました。試作は完成したのですが、クラフトアイアンらしい叩き跡の感じをさらに追求することにしました。

草屋根棟ではそのほかにも、軒下の土間空間の設え、前回検討した石の洗面ボウルの最終形態や組み合わせる水栓金物の検討など、打ち合わせ項目が目白押しでした。






ストンと納得する瞬間


【母屋のダイニングテーブル】
中村さんがデザイン提案してくれたテーブル脚の試作が届きました。大工デザインの住空間のためのテーブル脚。上々の仕上がりです。この脚の上に、天板を模した合板を乗せてみます。奇抜なことは何もありませんが、他にはないデザインです。ここで中村さんが切り出したのは、天板の一辺を曲線で仕上げるという提案です。え!? と、回答に詰まるほど思いも寄らないことでした。四角いテーブルに何の疑いも持っていなかったし、何も悪くない。しかし、話し合ううちに、四角四面なところ
に面白みが加わる案だと、ストンと納得できました。曲線で行きましょう!


【ふとん家具?】
わかっていながら保留にしていたのが寝具です。この家のプランが始まってから、加盟する股旅社中の縁で訪ねたのが真綿のふとんを自家製作するふとん店。すっかり魅了されたのですが、2、3 年待ちということでなんとなく無理かと思っていました。それは、広報担当の大瀧彩央里ことこの家の奥さんも同じ気持ちだったようで、この土壇場で、真綿ふとんを2、3 年待つことに決めました。それまでは今使っている寝具ですごして、それまでに魅了された真綿のふとんのためのオリジナル家具を考えることにしました。まだ何も描けていないことですが、ふとんを待つことに決めたことにスッキリ納得です。

自宅ということもあり、様々なデザインチャレンジをしています。その取り組みを通じて実感してきたのは、無理のあるデザインは無理だということ。しかし、それでも思いを実現したいなら、無理が無理でなくなる道を見つけること。簡単に通る理屈ばかりではつまらないから、勘や感じや好き嫌いの主観も大事です。主観と主観で議論すると、まとまらないことも多々ありますが、どこかでストンと納得できる瞬間があり、それが正しい答えだということがわかるときがあります。
大工工務店のデザインとプランニング、数か月後の完成をめざしてまだ進化中です。